Deal・ミズホ武芸帳
第4話 「成長の証 − ブリテン −」
次の修行の場所を検討するため、俺はブリテンにやってきた。
久しぶりに都会の喧噪の中に身を置くと、自分がとてもちっぽけな存在に思えてくる。
ここ最近はずっと剣の修行に明け暮れていたので、銀行前で交わされている人々の生活感溢れる会話がなんだかとても新鮮だ。
冒険の結果を話し合っている者たち、物売りの売り言葉、馬やオスタードの鳴き声・・・
次の修行の場所を決めるまでの1、2日はこの街でのんびり過ごすのも良いかもしれない。
そう決めた俺は銀行に鎧一式を預け、街の中を歩き回ってみることにした。
そういえばまだロード・ブリティッシュ城に行ったことがなかったな。
一般人の立ち入りは許可されているそうなので、俺は城の中に足を踏み入れることにした。
ほう、これがブリティッシュ王の玉座か。王が不在だというのが残念だ。
衛兵に聞いたら、犯罪行為さえしなければこの城の部屋を自由に使っていい、
とのことだったので、あちこちの部屋を巡ってみた。
色々ある部屋の中に一室、とても落ち着いた雰囲気の部屋があった。
街の喧噪が嘘のように静かで、他に通りかかる人もいない。
俺は衛兵に交渉して、この部屋をしばらく使わせてもらうことにした。
ここでしばらく骨休めをしよう・・・
俺が城で寝泊まりするようになって3日ほど経った。
その間実は剣こそ振らなかったが、基礎トレーニングは欠かさなかった。
むしろ基礎体力の向上に集中できて、ここに来る前よりずっと体が軽い気がする。
骨休めのつもりだったが、結局修行になっていたようだ。まぁ、これが俺の性分というヤツか。
ならばもうここで休んでいる理由はない!
俺の右腕はこの3日間の成果を試したくてうずうずしている。
部屋を使わせてくれた衛兵に礼を言い、俺は修行を再開するために城を飛び出した!
装備を整えた俺は、街の北にある墓場へと向かった。
そこもジェローム同様、迷える亡者達が犠牲者を求めて徘徊している、という話を聞いたからだ。
墓場に到着した途端、早速1体のスペクターが俺に襲いかかってきた。
俺は剣を抜いてそいつに斬りかかった。
・・・おかしい、この剣はこんなに軽かったか?
いや、そうではなかった。剣が軽くなったのではなく、俺の筋力や敏捷性が増していたのだ。
その事は目の前のスペクターの残滓が物語っている。確かに俺は強くなっているようだ。
ならばあることを試してみよう。
それができるようになっていたのなら、修行の場所はあそこにしよう。
俺は墓場を出て、森の中を北上した。
これまでずっと徒歩だったのには理由がある。
徒歩で歩くことも修行の一環だということもあるが、なにより自分の実力が
馬に乗るレベルに至っていない、と考えていたからだ。
万が一自分の馬がモンスターに襲われても助けられないようだと馬も気の毒だ。
だがとりあえずその心配はなくなった。だから修行に出る準備として乗馬を探すことにしたのだ。
城内の馬屋で親しくなった馬屋番に、馬の手なずけ方を習うついでに野生の馬が生息している場所を聞いておいた。
なるほど、確かにこの辺りの森には野生の動物がたくさんいるようだ。
しばらく森の中を歩いていると・・・少し先の木の陰に白馬がいるようだ。
俺は驚かせないように注意深く歩を進め、その白馬を手なづけ始めた。
餌をやったり、なだめたり、声をかけたりしているうちに俺に対する警戒を解き、色々言うことを聞いてくれるようになった。
俺はこの白馬にWhiteCloudという名前を付け、早速その背にまたがってその辺りを走ってみた。
すごい! さすがに徒歩とは大違いだぜ!
森の中を飛ぶように駆け抜け、少し開けた場所に出た。
すると、そこに俺が探していたそいつが現れた・・・!
自分の今の実力を計る最適の相手、雄牛に向かってWhiteCloudを走らせる。
駆け寄りながら剣を抜き放ち、雄牛に一太刀浴びせる。よし! 手応えありだ!
これまでほとんど傷つけることができなかった雄牛に、次々と攻撃が命中する。
そして反撃らしい反撃を受けることなく、雄牛を倒すことができた・・・!
修行を始めた頃はまったく歯が立たなかった事を思い出すと感慨もひとしおだ。
そしてこのことは、俺の修行が次の段階に進んだことを示している。
墓場の亡者や動物たちを相手にした修行はもう終わりだ。
俺のこれからの修行場所は・・・ダンジョンだ!
[Deal > 雄牛]