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╋■┛ Moon-Moon-Glows 《 新月とミヅキの物語
》 (全八話)
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□┓ プロローグ
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「新月さ〜ん、そろそろ出発しますよ!」
家の前の広場が賑やかになってきた。
ギルメン達が次々リコアウトしてきたようだ。
「分かった、包帯を補充したらすぐ行く」
そう言って俺はセキュアを開けて、包帯を探し始めた。
しかし整理整頓が苦手な性格が災いして、セキュアの中は人様にお見せできない有様である。
なにしろ第一階層に入っているはずの包帯すらすぐに見つけられないレベルだ。
手当たり次第に袋を開けたりバッグを持ち上げたりしていると、見覚えのない袋を見つけた。
何が入っているのかと開けてみると、中からでてきたのはピンクナデシコが2株。
「……こんなところにあったのか」
あれからどれだけの月日が流れたのだろうか。
ミヅキと出会い、二人で過ごした日々。
俺を師匠と呼んで慕ってくる彼女に、戦士としての戦い方を教え込んだあの日々。
やがて立派な戦士に成長した彼女と共に、強敵と剣を交えたあの日々。
そんな彼女は─────もう、いない。
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□┓ 第一話
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ミヅキと初めて出会ったのはムーングロウのコットン畑だった。
俺が包帯用のコットンを摘んでいると、視界の端に“Mizuki”という名前が見えた。
その直後、森の中から傷だらけの彼女が飛び出してきたのだ。
「もうっ! しつこ〜い!」
そう言って手に持った牧羊杖を振り回し、追いかけてきたスケルトン2体を追い払おうとしている。
牧羊杖で殴っているってことはメイサーか?
しかしファンシーシャツにロングスカートと戦士にしては軽装だ。
「いや〜〜! も〜〜〜!」
どうやらテンパりすぎて、俺がいることにすら気づいていないようだ。
「この! この! この!」
おー、頑張るなぁ。
牧羊杖の打撃によって1体目のスケルトンが粉砕された。
俺が手助けしなくても何とかなりそうだったので、そのまま見守ることにした。
「えいっ! えいっ! ……やったぁ〜〜〜」
2体目のスケルトンがバラバラと崩れ落ちた。
その場にへたり込む彼女にお疲れさん、と声をかけようとしたその時、
「ウシャシャシャシャシャ……」
森の中から不気味な笑い声がした。
あの声、まさかリッチか!?
考えるより先に体が動いていた。
彼女の横を駆け抜けざま腰の大小を抜刀!
Consecrate Weaponを唱えながらリッチの懐に飛び込み、Double
Strikeで二連撃を叩き込んだ!
断末魔の声をあげて崩れ落ちるリッチ。
ふぅ、と戦闘モードを解いて振り返ると、目を真ん丸にして俺を見上げる彼女と目が合った。
あちこち傷だらけのホコリまみれだが、結構かわいい顔してるな。
そんな俺の視線に気づいたのか彼女は慌てて立ち上がり、
「ぁっ……ありがとうございますっ……!」
と俺に頭を下げる。
「おぅ。大丈夫か?」
「はいっ、な、なんとか! ありがとうございます! ありがとうございます!」
立位体前屈かってぐらい深々とお辞儀を繰り返しながら、何度も礼を言う彼女。
そのたびにポニーテールがピョンピョンと跳ね上がる。
あまりに何度も礼を言われるので照れ隠しに、
「こんなところまで墓場のモンスが流れてくるなんてな」
と話題を変えると、
「あ……えーっと、それは……」
彼女は胸の前で牧羊杖を抱え、困ったように目をそらしてもじもじする。
その時になって初めて、彼女の後ろに一頭の牝鹿がいるのに気が付いた。
「この子がモンスに襲われてて、助けようと戦っていたら墓場の方からどんどんこっちに来ちゃって」
牝鹿の名前は「aa hind」にリネームされている。
誰かがテイム修行に使ってリリースしたのだろう。
リリースペットがモンスに襲われていても放っときゃいいのにと思ったが、彼女が嬉しそうに牝鹿の頭を撫でているのを見て、まぁいいかと思った。
服の汚れをはたいていた彼女が俺の頭上をじっと見て、
「あっ!」
と声を上げ、
「ひょっとしてSingetuさんの名前って、漢字だと“新月”って書くんですか!?」
そう言いながらぐいっと顔を近づけてきた。
「あ、あぁ、そうだけど?」
その勢いに少したじろぎつつ答える。
すると彼女は目を輝かせて、
「私の名前も漢字で書くと“美月”なんです!」
「……へぇ、そうなんだ」
「えへへ、私たち月仲間ですね♪
一緒、一緒、わーい\(^▽^)/」
そう言って楽しそうにその場でくるくる回り始めた。
賑やかで面白い子だ。
「新月さんは戦士さんですか?」
俺は身に着けているプレートメイルを拳で軽く叩き、そうだと答えた。
「リッチを一撃なんて凄いですねぇ。私も一応戦士なんだけど、全然強くなれなくて」
「ほぅ、ミヅキさんはメイジだと思ってたよ」
「あ、ミヅキでいいですよ」
なんでも牧羊スキルの修行中に杖でモンスを殴っていたらメイスが上がり、そのまま戦士系スキルを上げることにしたらしい。
他にどんなスキルを持っているのか聞いてみると、
「えっとぉ、騎士と牧羊と包帯と裁縫とフォーカスと……」
と指折り数え始める。
なんというか……自由な感じがいかにもって気がするな。
ちなみに魔法スキルは、
「修行が大変そうなのでやってません!(キリッ)」
だそうだ。
裁縫修行用の布を調達するためにコットン畑のあるムーングロウを拠点にしているそうだ。
俺も包帯用のコットンを摘みにくることを話すと、
「包帯は全然回復できなくてつらいですねー」
といいながら先ほど受けた傷に包帯を巻き始めた。
まだスキルが低いらしく、包帯を巻く手つきはモタモタしていて何度も指を滑らせている。
見かねた俺がサッと包帯を巻いて治してやると、また目を丸くして驚きの声を上げた。
「新月さん凄く早い! プロみたい!」
プロってなんだプロって。
どうやら他人を治療する時は包帯巻き時間が短くなることを知らないようだ。
話を聞いてみると、案の定DEXで巻き速度が変わることも知らなかった。
『治療中にダメージを受けると指が滑って回復量が減る』なんてことはもちろん知らず、更に戦士の戦い方の基本であるヒット&アウェイすら知らなかった。
だからさっき足を止めて殴り合っていたのか。
「それってどういうことなんですか!? 教えてくださいっ!」
俺の説明にミヅキは目を輝かせ、頷きながら熱心に聞き入っている。
そんな様子に自分がUOを始めたばかりの頃を思い出していると、
「師匠っ!」
そう言ってミヅキは俺の両手をがっちり掴んだ。
し、師匠!?
俺がリアクションできずに固まっていると、
「私に戦士の戦い方を教えてくださいっ!!!」
「えぇっ!?」
キラキラした瞳で俺の目をまっすぐ見つめ、じっと返事を待つミヅキ。
「……お、おう」
その迫力に圧倒され、思わず頷いてしまう。
「わぁーーーい!」
そう言ってミヅキはバンザイしながら、嬉しそうに何度も飛び跳ねた。
俺はUOを始めてそろそろ5年目だ。
スキル構成はネクロ抜きの騎士武士剣士、いわゆる武士パラディンだ。
ギルドに入っているが、ギル活以外は基本ソロで活動している。
パーティープレイもボスソロもそつなくこなせるので、ギルド内で頼りにされることも多い。
しかし今まで新人に戦い方を教えるようなことはしたことが無かった。
だから具体的になにをどうやって教えればいいか見当もつかない。
ミヅキにそう正直に伝えると、
「じゃあ一緒に狩りに連れて行ってくれるだけでいいです。その間にししょーの技を盗みます!」
そう言って牧羊杖で素振りを始めた。
最近プレイもマンネリ気味だし、一緒に狩りに行くぐらいならいいか……
こうして俺はミヅキの師匠として、修行につきあうことになった。
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