Deal・ミズホ武芸帳
第8話 「敗走、そして・・・ − コブトス −」
ちぃっ、また毒だ!
俺は心の中で舌打ちし、持っていたカタナを鞘に戻して、腰のポーチに入れてある解毒剤を口に含む。
すっ、と息苦しさが消える。どうやら解毒できたようだ。
俺は再びカタナを抜き放ち、解毒剤を飲む間盾で攻撃をしのいでいた、目の前の異形の怪物に向き直った。
その怪物の名はゲイザー。
簡単に言えば、空中に浮かぶ巨大な目玉だ。
まるで誰かの悪夢から抜け出てきたようなこの異形の姿。
しかしこいつの強さは本物の悪夢だ。
突然、俺の全身が炎に包まれた!
ぐっ・・・フレイムストライクの呪文か・・・!
炎は現れたときと同じ唐突さでかき消えたが、俺は相当の深手を負ってしまった。
とっさに巻いた魔力の込められた包帯の効果によって多少の傷を癒すことができたが、このまま戦い続けるのは危険だ。
う・・・もう一体のゲイザーが現れやがった!
一対一ならまだ勝算はあるが、2体のゲイザーを相手にするのは無謀な行為だ。
仕方なく俺は追撃の呪文をかわしながらダンジョンの外へと逃げ出した。
最近はいつもこうだ。雨の降り出した空を見上げ、俺はため息を一つついた。
手持ちの解毒剤や包帯の残りも少ない。
そして鞄の中からルーンブックをとりだし、ブリテンのページを開いて意識を集中させる。
俺は街へとリコールした・・・
[Deal > ゲイザー]
[ゲイザー×2 > Deal]
そう、俺は今コブトスで修行している。
デスパイズでの修行に限界を感じた俺は、次の修行の場にこのコブトスを選んだのだ。
このダンジョンの1Fはハーピー族とヘッドレス、コープサー、そしてゲイザーが出没するらしい。
その場から動かないコープサー、数回斬りつければ倒せるヘッドレス、数は多いがさほど攻撃力のないハーピー。
これらのモンスターは元々眼中にない。
俺がここを選んだ理由は、ハーピー族の亜種ストーンハーピーと、
魔法攻撃を得意とするゲイザーを相手に修行をしたかったからだ。
ストーンハーピーの攻撃力と防御力は確かに驚異的だったが、包帯を巻きながら戦えば危なげなく戦える。
だがゲイザーは思ったより危険な相手だった。
特にやっかいなのは、相手の体内に毒素を発生させる呪文だ。
毒によるダメージはさして大きくないとはいえ、決して無視できない。
そのたびに解毒剤を飲むことにして対処しているのだが、もうどれだけ消費したのか分かったもんじゃない。
俺がデスパイズでエティン達相手に使った呪文で今度は俺自身が苦しめられるとは、なんとも皮肉だ・・・
[Deal > ヘッドレス]
[Deal > コープサー]
[Deal > ハーピー×4]
[Deal > ストーンハーピー]
銀行から金を引き出し、魔法屋で解毒剤を10本ほど買ってくる。
そして鍛冶屋に行って傷んだ武器を修理してもらい、予備の武器を持ち、包帯の補充も済ませて準備完了。
ルーンブックでコブトスにリコールし、あとは消耗品が尽きるか、2体のゲイザーに追われるまで中で戦い続ける。
そんな修行を続けていたある日・・・
1体のゲイザーと戦っていた俺の横に新たなゲイザーが現れた。
くそっ、もう少しでこいつが倒せるっていうのに・・・!
ここは覚悟を決めてその場に留まり、とにかく1体目を倒すことに意識を集中した。
それまで振っていた刀の切れ味が落ちてきたので予備のカタナに持ち替え、1体目に斬りつける。
新品の切れ味の効果か、かなりのダメージを与えることができたようで、そいつはふらふらと逃げ出した。
すかさず追撃してとどめを刺す!
そして振り向きざま、背後にせまっていた2体目に斬りつけた!
2体目の触手が輝き、ズンッ、と魔法による衝撃がきたが構わず攻撃を続ける。
幾太刀か浴びせた頃、急に息苦しくなり、気分が悪くなった。
毒化の呪文だ。
俺は夢中で解毒剤をあおり、包帯で傷を癒し続けた。
2体目の動きが負傷で鈍くなってきたとき、背後に殺気を感じた!
肩越しに振り向くと、3体目のゲイザーが俺に触手を向けて魔法を使おうとしているところだった。
俺は背後からの一撃を覚悟して身をこわばらせた!
そして魔法による衝撃!
うん? 確かにダメージはあるが以前ほど傷は深くないようだ。
しかしその理由について、それ以上考えている余裕はなかった。
ともかく目の前の敵を全力で倒す!
その後何度も瀕死の重傷を負いながらも包帯の効果で持ち直し、2体目にとどめを刺すことができた。
俺は3体目の方に振り返る。
今まで後ろから好き放題してくれたな・・・
再び魔法を使おうとして輝き始めた触手の一本を一太刀で切り落とす! そして返す刀で側部の表皮を斬りつける。
3体目の触手が輝きを増し、俺の体を炎が包み込んだ! ゲイザー最強の呪文、フレイムストライクだ!
俺はとっさに精神を集中し、ジリジリと肌を焼く業火にじっと耐え続ける。
やがて俺を包み込んだ炎が消える。
助かった・・・やけどはそれほどひどくはない。
さっきも、そして今もゲイザーの魔法攻撃をしのぎきった。
その瞬間俺は悟った。
これはゲイザーの攻撃力が弱くなったんじゃない。
俺の魔法への抵抗力が強くなったのだ!
散々苦しめられた毒化の呪文も、抵抗してしまえば怖くはない!
やがて3体目にとどめを刺し、地面に倒れているゲイザー達の死骸を見やる。
そう、俺は意識せぬまま同時にゲイザー2体を相手に戦っていたのだ。
無くしかけていた自信が再び蘇ってきた。
俺は・・・まだまだ強くなれる!
[Deal > ゲイザー×2]
<Tactics GM達成>