Deal・ミズホ武芸帳

第6話 「死の洞窟 − デスパイズ −」

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デスパイズに向かう前に、俺は鍛冶屋へとWhite Cloudを走らせた。

先日の戦闘で武器が刃こぼれしたので、鍛え直してもらうためだ。

鍛冶屋の前には見習いからベテランまで様々な鍛冶屋がいて、冒険者達の武器を修理してくれる、という話を聞いていた。

確かに炉の周りには鍛冶屋とおぼしき何人かが談笑している。

俺はその集団に近づき、武器を修理してくれないか、と頼んでみた。

するとその中の一人が俺の方に振り向き、厚手のグローブをはめた手を差し出して答えた。

「ええ、いいわよ。私が見てあげるわ」

俺は驚きつつも武器を手渡した。

俺の鍛冶屋のイメージは職人堅気な親父だったのだが、どうやら女性の鍛冶屋もいるようだ。

そう思って周りを見てみると、他にも何人か鍛冶屋とおぼしき女性が金床を叩いている。

どうやら認識を改めなくちゃいけないな・・・

頬を掻く振りをして苦笑いをごまかしていると、「はい、できたわよ!」と武器を手渡された。

おぉ、見事に刃こぼれが直っている。俺は礼を言いながら用意しておいた心付けを渡す。

一瞬彼女は驚いたような表情を浮かべたが、「どうもありがとう!」と微笑み返してくれた。

いや、こちらこそ助かるよ。また今度修理を頼んでもいいかな?

「ええ、またどうぞ」

別れ際にもう一度礼を言い、俺はデスパイズへと向かった。


前回来たときにルーンにデスパイズの場所を記憶させたので、リコールの呪文で洞窟入り口に転移した。

そして明かりの呪文を唱え、装備を確認して洞窟へと足を踏み入れた・・・


地下2階へと進み、洞窟の奥へと赴くと誰がいたのかは分からないが、野営の跡があった。

この辺りの敵を相手にすることにしよう。

洞窟の奥を覗いてみると・・・4つの光点がたき火の明かりを反射している。

きやがった、エティンだ!

雄叫びを上げ、棍棒を振りかざしながら駆け寄ってくる。敵は1体だ。

俺は通路の角に一旦身を隠し、ヤツが姿を現したのを見計らって腕の辺りを斬りつけながら飛び出した。

そして俺は知ったのだ。

ヤツの後ろから2体のエティンがこちらに向かって駆け寄っていることを!

しかし攻撃を1体に絞り、常に自分の傷の具合を推しはかりながら戦えば何とかなるはずだ!

俺は覚悟を決めて、ヤツらを迎え撃つべくカタナを構え直した。


さすがに3体を同時に相手するのは厳しい。

だが1体に攻撃を集中させれば、ヤツらの乱打の隙をついてなんとか致命傷を与えることができるようだ。

そして俺は戦いの中である事に気がついた。

足を止めて大勢の敵に取り囲まれて戦うより、White Cloudの機動力を生かして

ヒット&アウェイで戦った方がダメージが少なく戦うことができるのではないか?

そして早速実践してみる。

1体を集中攻撃するのは変わらず、すれ違いざまに一撃斬りつけて素早く離脱。

エティン達が振り向いて棍棒を振り上げたところをかいくぐり、またすれ違いざまに一撃。

よし! この戦法はいける!

その後、四体のエティンに同時に襲われることになったが、この戦法のお陰で

危なげなく1体ずつ倒すことができるようになった・・・!


[Deal > エティン×4]


足元には5体のエティンの死体が転がっている。

しかしヤツらは次々と増援を呼んできやがる。まったく倒しても倒してもキリがないぜ!

6体目のエティンにとどめを刺そうとWhite Cloudの手綱を引いたとき、それは現象起こった。

俺は突然猛烈なめまいに襲われ、一瞬意識が遠のく。

なんだ? この感覚は・・・

世界が一瞬止まったように感じ、そして急に目の前が暗くなっていった。

俺は焦ってなにかに取りすがろうと手を伸ばした!

だがその手は虚しく空を切り、俺の意識はそのまま暗黒に飲み込まれていった・・・


次に意識が戻ったとき、俺の意識は現実世界と虚無の世界の狭間にあった。

足元には俺自身の死体が転がり、White Cloudの断末魔の悲鳴が聞こえる。

俺は思わずエティン達に飛びかかったが、その手はヤツらの体を素通りした。

そう、俺は死んだのだ。

下卑た笑いを浮かべながら、エティン達は俺のカバンを漁っている。

怒りで目がくらんだが、哀れなWhite Cloudの死体が目に入った途端、理性を取り戻した。

まずは現実世界に魂を戻さなくては!

俺はダンジョンの出口へと走った。


洞窟を飛び出すと、そこには冒険者の一団がいた。

つい癖でその人ごみを避けて通り抜けようとすると、背後から呼び止められた。

振り返ると、魔術士風の男性が俺の側まで走ってきて、蘇生呪文を唱えはじめる。

そして俺の魂は現実世界へと転生した。

す、すまない、ここまでしてもらうつもりはなかったのだが・・・

回復呪文で体力が回復していくのを感じながら、俺は恐縮して何度も礼を言った。

「荷物の回収を手伝いますよ。さぁ、行きましょう」

いや、これ以上迷惑をかけるのは申し訳ない。ここからは自分でなんとかしてみます。

しかし彼らは、今は手が空いているから気にしなくていい、とにこやかに微笑んでくれた。

俺は彼らの好意に甘えることにした・・・


魂がないとはいえ、自分の死体を見下ろすのは気分のいいものじゃない。

俺を殺したエティン達は、既に他の冒険者達に倒された後のようで、

俺は安全に持ち物を回収することができた。

もっとも、エティンが奪い去った金品は戻ってこなかったが。

だがまぁ大した額ではなかったし、元々貴重品は持ち歩いてなかったので構わないがな。

蘇生してくれたグループに改めて礼を言い、俺は一旦デスパイズを出て森へと向かった。


森の中を馬を探して歩いていると、奥の方からいななきが聞こえてきた。

鳴き方が尋常ではなかったので急いで駆け寄ってみると、一頭の馬がヘッドレスに襲われていた。

すかさず剣を抜き、この異形のモンスターを一刀両断に切り伏せる。

ヘッドレスの死を確認して馬に近づいて行くが、まだ興奮状態にあるらしい。

俺はカバンからリンゴを取りだし、声を掛けながらそれを差し出した。

最初のうちは警戒していたが、やがておずおずと首を伸ばし、俺の手のひらからリンゴを食べ始めた。

どうやら俺になついてくれたらしい。

この馬にMarbleという名前を付け、その背に飛び乗る。

そしてそのままブリテンへと向かった。

デスパイズを出て道すがら考えた「秘策」の準備をするために・・・




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