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□┓ 第六話
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ギルドハウスの扉を開けるとフィオナさんがいた。
いつものように酒を呑みながらギル活の戦利品を整理していたようだ。
「ミヅキが休止した話、フィオナさん聞いてるか?」
俺は単刀直入に切り出した。
すると俺の顔をしばらくじっと見つめてから、
「……はぁ〜」
と大きなため息をつき、ジト目で睨みながら手招きする。
「シンちゃん仕事が忙しかったのは仕方ないけど、ちょっとミヅキ可哀そうだったわよ」
「誘いを何度も断ったのは悪いと思っている」
俺はフィオナさんに勧められるまま隣の椅子に座る。
「会える時間が短い時こそ一緒にいてあげるべきだったわね」
「そういうもんかな」
「あーもー、女心がわかんないわねぇ! この脳筋男!」
ひどい言われようだ。
「あと用事があるって言って、図書館で何かこそこそやってたわね?」
どうやらクエスト中の姿を目撃されていたらしい。
俺が正直にピンクナデシコの話を伝えると、
「えっ、ピンクナデシコ……!?」
と、一瞬呆けたような顔をしたあと、
「え〜〜〜〜〜〜!? あんたがミヅキと!? マジで!?」
と、さっきまでのいかめしい雰囲気から一転、すごく嬉しそうな顔で驚かれた。
「こりゃギルドをあげて盛大にお祝いしなくっちゃね!!!」
……俺は一番しちゃいけない相手に話してしまったのかもしれない。
と軽く後悔していると、突然フィオナさんが鉄扇を取り出した。
我がギルド内で通称“つっこみハリセン”と呼ばれている代物だ。
そしてお決まりのSayマクロとともに俺の頭をどやしつけてきた。
「*このバカチンが〜!!*」
スパン! スパン! スパーン!
「いってぇぇぇぇ!」
ギルドハウスにハリセンのスペシャルムーブによる3連ドツキ音が響き渡った。
まったくもって酔っぱらいの行動は唐突過ぎて読めん。
「そんな大事な事を相手に相談もせず勝手に進めるって、脳筋にも程があるわ!」
「う……」
俺はぐうの音も出ない。
「おおかたサプライズプレゼントで喜ばそうとか考えてたっしょ?」
「お、おう」
図星過ぎて頷くことしかできない。
「やっぱほらプレゼントはあれだ、秘密じゃないと─────」
俺がしどろもどろ弁解しようとするのをさえぎって、フィオナさんは真面目な顔になって続けた。
「シンちゃん、ミヅキの気持ち考えたことある? 寂しがってたわよ?
口では『ししょーは私より大事な用事があるみたいです』って言って笑ってたけどね」
ぎゅっと心臓を掴まれたような気分だった。
ミヅキをそんな気持ちにさせていたのか、俺は。
「休止する相談をしたくてもあんたは自分を避けるようにソロ活動してるし、それであたしのところに相談にきたってわけ」
そして俺をじろりと睨み、
「ミヅキなら何も言わなくても黙って待ってくれるって思ってたでしょ」
そう言ってデコピンを一発。
「ちょっとした事でさえ言葉だけでは伝わらないこともあるんだからさ。
大事な事ならなおさら、口に出して言わないといけないわよ?」
と言いながら軽くこぶしを握り、俺の鎧の胸当てにゴツンとぶつけた。
確かに俺は、ミヅキが無条件で俺を信頼してくれることに慣れてしまっていた。
だからミヅキが本当のところどんな気持ちでいたのか、あまり気にすることはなかった。
今回だって少し寂しい思いさせるかなとは思っていたが、サプライズUO婚で十分チャラにできるだろうとたかを括っていた。
そしてピンクナデシコを手に入れるのを焦るあまり、俺は大事なことを忘れていたようだ。
ミヅキを喜ばせるための行動で寂しい思いをさせるようじゃ本末転倒だ。
「……確かに俺が全面的に悪いな。フィオナさんにも迷惑かけてすまなかった」
そう頭を下げ、ギルドハウスの外に出た。
フィオナさんは何か言いたげだったが、俺が黙礼するとヤレヤレといった顔をして手をヒラヒラさせた。
家に戻った俺は、ミヅキが休止した理由を聞いていなかったことを思い出した。
だがミヅキがいない今、理由はもうどうでも良かった。
俺はカバンの中のピンクナデシコを見つめた。
ミヅキがUOを辞めてしまった今となっては使い道がない品だ。
これを手に入れるのにかけた時間分ミヅキと一緒に過ごせたはずだと思うと、苦労して手に入れたピンクナデシコが急に色褪せて見えた。
ミヅキがいなくなると知っていたら、狩りに行けなくてもいくらでも思い出を作ることができたはずだ。
リアルが忙しかった、辞めることを知らなかった、と言い訳はいくらでもできる。
だが今更それを言ったところでミヅキが戻ってくるわけじゃあない。
不幸な偶然が重なったのかもしれないが、そもそもの原因は俺がミヅキに相談もせず先走ったことにある。
どんなに悔やんだところで、もうミヅキはいないのだ。
俺はカバンからピンクナデシコを取り出すと、手近にあった適当な袋に入れてセキュアに放り込んだ。
その後、このピンクナデシコはセキュアで眠り続けることになる。
ミヅキとの突然の別れという、ほろ苦い思い出とともに─────
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